実務コラム - メモリ中心アーキテクチャの考え方

なぜAIインフラは「メモリ中心アーキテクチャ」へ向かうのか

AIやHPC向けのインフラ設計では、これまでCPUやGPUを増やすことが主な手段でした。
しかし近年、スケールの制約は必ずしも演算性能そのものではなく、メモリの配置や帯域、そしてデータ移動の構造に起因するケースが増えています。

本コラムでは、その背景として注目される「メモリ中心アーキテクチャ」の考え方を、過度な主張を避けつつ整理します。

「容量」ではなく「扱い方」が課題になる

メモリが不足して見える状況は、単純な容量不足だけでなく、ノード単位の固定的な割り当てや、ピーク前提のプロビジョニングにより生じます。
結果として、全体最適ではなく部分最適が積み重なりやすくなります。

メモリ中心アーキテクチャとは(考え方)

メモリ中心アーキテクチャは、コンピュート(CPU/GPU)を増やすこととメモリを増やすことを必ずしも一体とせず、 ワークロード特性に合わせてメモリをより柔軟に扱う設計思想です。
重要なのは「メモリを増やす」ではなく、「必要な場所に、必要なタイミングで、必要な量を供給しやすくする」ことです。

ファブリックという発想(共有・プール・分離)

従来はノード内に閉じたメモリ設計が中心でしたが、近年はインターコネクト技術の進展により、メモリをより広い単位で扱う検討が進んでいます。 例えば次のような方向性が議論されています。

  • 必要に応じたメモリの共有(Sharing)
  • 利用状況に応じたプール(Pooling)
  • リソースの分離(Disaggregation)に向けた設計検討

これらは実装方式や前提条件により難易度が大きく異なるため、評価ではレイテンシや帯域だけでなく、ソフトウェアスタックや運用モデルの整合も重要になります。

オープン標準の動き

AI/HPC領域では、相互接続やメモリ拡張に関する複数の技術要素が議論されています。
CXLのような標準や加速器間接続の議論など、方向性として「より柔軟なメモリの扱い」を後押しする動きが見られます。

おわりに

メモリ中心アーキテクチャは、単なる新技術の導入ではなく、AIワークロードの特性に合わせてインフラの前提を見直す試みとも言えます。
次回は、この流れの中で古典的アーキテクチャの制約がどのように顕在化するのか(データ移動の観点)を整理します。

筆者について

I.J.ビジネス道社は、日本企業向けにイスラエル発技術との協業検討を実務ベースで支援しています。
本コラムは特定製品の紹介を目的とするものではなく、AI/HPC領域で起きやすい論点の整理として作成しています。

技術検討の前提整理(課題の構造化、検討観点の整理)が必要な場合は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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