改修現場で、測定後の図面作成はなぜ大変なのか
改修・リノベーション案件では、現況把握の手段が多様化し、現場での情報取得自体は以前より進めやすくなりました。
一方で、実務上のボトルネックになりやすいのが、その後工程である「図面化」と「成果物の標準化」です。
本コラムでは、測定後に発生しやすい課題を、手戻り・品質・運用負荷という観点で整理します。
本質的な課題は「どう測るか」ではなく、
測定結果を次工程でそのまま使える形にできているかという点にあります。
近年、日本の建設業界では、計測や現況把握のDXが急速に進んでいます。
一方で、取得したデータを「実務で使える図面」に落とし込む工程は、依然として現場ごとに工夫や属人対応に委ねられているのが実情です。
測定後工程で起きやすい3つの課題
- 手戻りが読みにくい – 改修案件では、現場条件や既存躯体の個別差が大きく、後から追加計測や補正が発生しやすい。
- 品質のばらつき – 図面表現やレイヤー、寸法ルール、納品形式などが担当者や外注先で変わり、社内の受入れ負荷が増える。
- 運用負荷が積み上がる – 現場→事務所→設計→施工の間で、データ変換・確認・修正が連鎖し、結果として納期リスクにつながる。
AS-ISデータは「保存」ではなく「次工程の入力」
既存空間の計測データを、どのように実務で使える図面へつなげるかが重要になります。
現況計測のDXというと、「計測や可視化」そのものが目的になりがちです。 しかし実務では、AS-ISデータは保存用の記録ではなく、次工程を動かすための入力情報として扱われます。
- 図面化にかかる時間を読めるか
- 製造・加工・施工にそのまま渡せる形式か
- 後工程での解釈や再作業を減らせるか
測定精度や可視化がどれだけ向上しても、
次工程で再解釈や再作業が必要であれば、
業務負荷は本質的には減りません。
例えば、Matterportに代表される3Dキャプチャ技術は、
現況の可視化や共有という点では非常に有効です。
一方で、改修や製造・施工の現場では、
そのデータをどこまで図面や実務成果物に変換できるかが、次の課題になります。
この視点が欠けると、計測自体はDX化されていても、後工程の負荷は下がりません。
「標準化」を考えるときの実務ポイント
図面化の課題は、ツール選定だけで解決しないケースが多くあります。
実務上は、どの成果物を「標準」とするのか、どこまでを現場で完結させるのか、という設計が重要です。
- 成果物の定義: 平面図、立面、建具、設備、造作など、必須範囲を明確化する
- 表現ルール: レイヤー、寸法、注記、単位、命名規則を統一する
- 受入れ基準: 誰が、何を、どの時点でチェックするかを決める
- 例外処理: 想定外の現場条件に対する運用ルールを用意する
また、計測や図面作成を内製化・高度化する動きも見られますが、
実務レベルでは「現場ごとに使えるか」「継続運用できるか」という別の課題が生じるケースも少なくありません。
これらが曖昧なまま進むと、現場ごとに判断が分岐し、手戻りや属人化が再発しやすくなります。
まずは「小さく試す」進め方
- 対象を1-2案件に限定し、現場条件が典型的なケースを選ぶ
- 成果物の形式と受入れ基準を先に決め、後工程の負荷を見える化する
- 「修正ゼロ」を前提にせず、手戻り削減と運用の安定性を評価する
改修現場における「測定後図面」の課題は、ツール単体の問題というよりも、 現場とオフィス、設計と施工をまたぐ業務フロー全体の設計に起因するケースが多く見られます。
現場で取得した情報を、どの時点で、どの粒度で、どの成果物として整理するのか。 その設計次第で、手戻りや確認工数、品質のばらつきは大きく変わります。
改修現場における測定後工程を、実務フローの観点から整理した内容については、 以下の関連ページでも解説しています。
筆者について
I.J.ビジネス道社は、日本企業向けにイスラエル発技術との協業検討を実務ベースで支援しています。
本コラムは特定製品の紹介を目的とするものではなく、現場で起きやすい論点の整理として作成しています。
もし社内で「測定後工程の標準化」や「成果物の品質・運用設計」が論点になっている場合は、
お問い合わせフォームよりご相談いただければ、状況に合わせて整理のお手伝いをいたします。
DXの成否は、測定技術そのものよりも、
測定後工程をどこまで実務フローとして設計できているかによって左右されます。